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「只今より、中央のやぐらで盆踊りを行います。只今より…」
スピーカーが繰り返し流れています。
人々が中央のやぐらに集まっていき、お母さんに手を引かれて麦子も公園の中央に向かいました。
喧騒が次第に大きくなっていきます。
やぐらに置かれた太鼓の音が、麦子の腹の底を震わせました。
麦子だけではなく、ほかの子どもたちもやぐらを見上げて興味津々です。
ふと気配を感じ、麦子は振り返りました。
人混みの隙間から、麦子はついに見つけたのです。
真っ赤な浴衣に身を包んだ女の子が、すーっと人混みの間を抜けていくのが見えました。
その女の子の手には、たしかにりんご飴が握られていたのです。
気づけば、麦子はお母さんの手を離していました。
水の上をすべる金魚のように、麦子と赤い浴衣の女の子は人混みの間をすり抜けていきます。
けれども、女の子との距離はなかなか縮まりません。
麦子の足は空回りしているかのように地面を捉えないのです。
二人は人混みを抜け、人がまばらになった公園の裏に出ました。
喧騒は遠ざかり、ほのかな灯りがぽつぽつと浮かんでいます。
そこでようやく麦子は女の子に追いつきました。
たくさん走ったはずなのに、不思議と息は苦しくありませんでした。
「そのりんごあめはどこで買ったの?」
麦子はやっと尋ねました。
女の子の表情はよく見えませんでしたが、どうやら微笑んだようでした。
「こっちよこっち」
女の子が麦子の手を引いて歩き出しました。
その手は、驚くほど冷たいのでした。
女の子に手を引かれながら、麦子はすべるように住宅街を抜けていきます。
公園から遠ざかったり近づいたりしながら、ぐるぐると路地を回ります。
そうして麦子は夜に吸い込まれていくのでした。
同じ場所をぐるぐると巡っていることに麦子は気づきません。
「ほんとにこっちなの?」
心配そうな麦子に、女の子はただ微笑むばかりでした。
このとき、水色だった麦子の浴衣は、少しずつ赤く染まっていました。
それは女の子の浴衣と同じ赤色です。
ゆっくりゆっくり染まっていきます。
そのことに麦子はまったく気づいていないのでした。
続き→麦子の夏祭り(おわり)
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