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【掌編小説】麦子の夏祭り(なか)~五分で読める物語~

トム【JPYCのインターンに落ちたザコ大学生】
3 years ago
麦子の夏祭り(なか)

麦子の夏祭り(なか)

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「只今より、中央のやぐらで盆踊りを行います。只今より…」

スピーカーが繰り返し流れています。

人々が中央のやぐらに集まっていき、お母さんに手を引かれて麦子も公園の中央に向かいました。

喧騒が次第に大きくなっていきます。

やぐらに置かれた太鼓の音が、麦子の腹の底を震わせました。

麦子だけではなく、ほかの子どもたちもやぐらを見上げて興味津々です。


ふと気配を感じ、麦子は振り返りました。

人混みの隙間から、麦子はついに見つけたのです。

真っ赤な浴衣に身を包んだ女の子が、すーっと人混みの間を抜けていくのが見えました。

その女の子の手には、たしかにりんご飴が握られていたのです。

~~~

気づけば、麦子はお母さんの手を離していました。

水の上をすべる金魚のように、麦子と赤い浴衣の女の子は人混みの間をすり抜けていきます。

けれども、女の子との距離はなかなか縮まりません。

麦子の足は空回りしているかのように地面を捉えないのです。

二人は人混みを抜け、人がまばらになった公園の裏に出ました。

喧騒は遠ざかり、ほのかな灯りがぽつぽつと浮かんでいます。


そこでようやく麦子は女の子に追いつきました。

たくさん走ったはずなのに、不思議と息は苦しくありませんでした。

「そのりんごあめはどこで買ったの?」

麦子はやっと尋ねました。

女の子の表情はよく見えませんでしたが、どうやら微笑んだようでした。

「こっちよこっち」

女の子が麦子の手を引いて歩き出しました。

その手は、驚くほど冷たいのでした。

~~~

女の子に手を引かれながら、麦子はすべるように住宅街を抜けていきます。

公園から遠ざかったり近づいたりしながら、ぐるぐると路地を回ります。

そうして麦子は夜に吸い込まれていくのでした。

同じ場所をぐるぐると巡っていることに麦子は気づきません。

「ほんとにこっちなの?」

心配そうな麦子に、女の子はただ微笑むばかりでした。

~~~

このとき、水色だった麦子の浴衣は、少しずつ赤く染まっていました。

それは女の子の浴衣と同じ赤色です。

ゆっくりゆっくり染まっていきます。

そのことに麦子はまったく気づいていないのでした。


続き→麦子の夏祭り(おわり)


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3 years ago
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