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ほどなくして、喧騒のはずれにぽつんと佇むひとつの屋台に辿り着きました。
古びた屋台に人影はありませんでしたが、そこには真っ赤に輝くりんご飴がところせましと並べられていました。
「りんごあめ!」
麦子は思わず叫びました。
女の子は屋台からひょいとりんご飴を手に取って麦子に差し出します。
「おかねはいいの?お店のひとは?」
麦子は急に不安になりました。
気がつけば、麦子の周りには女の子と屋台以外になにもありませんでした。
「おまつりはどこ?」
震えた声で麦子は尋ねました。
「りんご飴を食べたら戻りましょ」
女の子は微笑みながら言いました。
その声は麦子にそっくりなのでした。
もしくは麦子の声が女の子にそっくりなのでした。
麦子はりんご飴を手に取りました。
その艶やかな赤色は宝石のようでもあり血のようでもありました。
麦子はついにりんご飴を一口齧りました。
甘くてすっぱいりんご飴が口の中でぱちぱち弾けます。
このとき、麦子は自分の浴衣が真っ赤に染まっていることに気がつきました。
いつの間にか麦子は女の子と瓜二つの格好になっていたのです。
二人の足が地面から離れていきます。
赤い提灯や人々の喧騒が足元に霞んで見えました。
真っ赤な浴衣に身を包んだ二人の女の子が夏の夜空に昇っていきます。
そのとき、カランカランと音がしました。
それはラムネのガラス玉の音でした。
「おかあさん!」
宙に浮く女の子の一人がそう叫びます。
それは麦子なのでした。
「あら、ざんねん」
真っ赤な浴衣の女の子が上空で微笑んでいるのが見えました。
その微笑みは、驚くほど冷たいものでした。
途端、麦子は体重を取り戻し、地面に向かって落ちていきました。
眼下の赤い提灯が鮮明に映ります。
夏夜の気怠い空気が麦子を包みました。
地面に降り立った麦子はお母さんのもとへ駆け出しました。
今にも泣きだしそうに顔を歪めた麦子のお母さんは、すすり泣く麦子を力いっぱい抱きしめました。
夏祭りの喧騒がはるか遠くに聞こえます。
ラムネのガラス玉がカランカランと音を立てます。
お母さんに抱かれる麦子の浴衣は、きれいな水色に染まっておりました。
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