非証券トークン発行スキームとしてのSAFT
みなさんお久しぶりです。
柳瀬将と申します。
今年2つ目の真面目な記事です。
今回は私が普段勉強していることに近い話で、SAFTという資金調達方法について書いていきたいと思います。
SAFTのホワイトペーパーが読みたい方はこちらへどうぞ。
なお、実際にSAFTを行う際は、弁護士の助言を得ることを強く推奨します。
SAFTとは?
SAFTという資金調達方法が聞きなじみがない方もいるかもしれません。
ASTAR network の開発者いわく、「クリプト関連でのプロジェクトを考えている人」が行うべき資金調達方法らしいのです。
https://twitter.com/Sota_Web3/status/1438476588664774660?s=20&t=Usp1xooNgl3npjw7L-DRMw
簡単に言うと、SAFTは、トークン版のSAFEやJ-KISSです。
新株予約権のようなもので、トークンを期日に発行する契約のことです。
要は、「トークンセールの前に契約を締結し、トークンセール時にトークンの発行を受ける契約」をSAFTと呼んでいるのです。
なぜSAFTなのか?
資金調達するだけなら、ICO、IDO、IEOでもいい気がします。
たしかに、SAFTは明確な契約が存在することで出資側が安心するという側面もあります。
もっとも、SAFTには資金調達以外にも重要な役割があります。
SAFTにすることで、発行されるトークンがアメリカの証券法上の「証券」にあたらないようにすることができるのです。
トークンが「証券」にあたらないことにより、CEXがトークンを扱いやすくなり、トークン購入者が転売しやすくなります。
注意しなければならないのが、発行されるトークンは「証券」にあたらないものの、SAFTの契約自体は「証券」にあたるということです。
もっとも、SAFTは機関投資家と締結することが通常です。
機関投資家にしか売ることができないような、いわゆる「免除取引」に該当すれば、届け出が簡易的なものになったり免除されたりします。
免除取引についてや必要な届け出について気になる方はDMとかください。
そこで、資金調達手段としてSAFTが使われているのです。
「証券」該当性
アメリカには証券を規制する法律として1933 Securities Actという法律があります。
この法律の「証券」の定義は、1946年のSEC v. Howey Co. 事件の判決で定められたもので、Howey testと呼ばれています。
①投資(investment):商品やサービスの提供ではなく、金銭的な利益を受けることに対して、現金又はその他の金銭的価値のあるものを支払うこと
②共通性(commonality):複数の投資家の資金が共有(プール)されるという水平的共通性と、投資家と投資運用者が共通の利益を有するという垂直的共通性があること
③利益の期待(expected profits):投資家の主要な動機が、利益を得ることであること
④他人の努力(efforts of others):利益が、投資家ではなく専ら運用者の努力によって得られること
この4つの基準に当てはまると「証券」にあたり、SECへの届け出をはじめとする法律の定める行動をとる必要があるのです。
事業者にとっては、届け出よりも一般勧誘の禁止等の方が厳しいかもしれません。(条件によっては一般勧誘ができますが、ここでは割愛させていただきます。)
もちろん、アメリカ国民に売らないようにするのであれば、アメリカの証券法上の「証券」にあたったとしても上記のような制約は受けません。
SECによる事例判断
SECは、bitcoinやEtherの提供は金銭的な利益の提供にあたると判断しているため、ICO等で発行されたトークンは「証券」に該当します。
なお、bitcoinやEtherは、ユーティリティ性により「証券」にはあたらないと判断されました。
また、SECは、DAO事件のthe DAOのトークンは「証券」に該当するとのレポートを出しています。
有名な事例では、TelegramのICOで発行された「Gram」が「証券」にあたると判断されました。
このように、何も考えないでICO等をしてしまうと後々面倒くさいことになってしまうこともあるのです。
具体的にどのようにトークン設計すればいいのか?
4つの基準のうち、①投資と②共通性についてはあまり設計によって回避しようがありません。
もっとも、多くの海外のプロジェクトはうまくトークンを設計することで、③利益の期待と④他人の努力の要件に当たらないようにしています。
発行するトークンをネットワークの手数料(いわゆるガス代等)としての使用を主たる目的とすることで、③と④の要件にあたらないようにしているのです。
クリプトママことHester Peirce氏がセーフハーバー2.0(こちら参考和訳)を提案したのも③と④の要件を満たさないようにするためのものでした。
ユーティリティトークン
一番簡単な方法として、発行するトークンをユーティリティトークンにする方法があります。
そうすることによって、③利益の期待よりもネットワークを使用する目的の方が主たる目的となり、利益の期待を薄めることができます。
実質的に利益の期待が認められる場合は「証券」として扱われる可能性があるので注意してください。
また、トークンの想定される主たる機能がトークンに備わった状態でトークンを発行する必要があります。
大幅な追加的機能が予定されると④他人の努力を必要とするため「証券」にあたりやすくなるのです。
もっとも、提供されたソフトウェアが何回もアップデートするように、マイナーチェンジは認められると解されています。
そのため、想定される機能をトークン発行前までに全て備えさせる必要があるのです。
もっともユーティリティトークンであればすべて「証券」にあたらないということではありません。
次のような場合には、ユーティリティトークンであっても「証券」に該当します。
ⅰ トークンを意図された用途に使用することができない者に主に販売することで、購入者が③の利益に期待している側面が強くなり証券性が増す。アパレル業界でしか使用できないトークンを一般の人に販売する場合がそうである。
ⅱ また、トークンを販売するにあたって、著しく過剰な約束をした場合、④に当てはまる可能性が高くなる。過剰な約束を信じ結果として生じる機能性の向上から利益を得ることを期待するかもしれないからである。もっとも、ソフトウェアはアップデートしても証券だとは認定されないように、過剰でない機能の向上の約束はHowey testを満たすものではない。
ⅲ さらに、トークンの金融政策を発行者が管理している場合、④を満たす可能性が高まる。トークン発行者は④を満たさない理由として、トークン価格の上下は企業の努力ではなく市場の需給の変化のためであると答えなければならない。もっとも、発行者が金融政策を管理していた場合、価格の上下の理由が市場の需給であることが要因となりづらくなる。
ガバナンストークン
基本的にはユーティリティトークンと同じで、いかにトークンを③及び④に該当しないように設計するかが大事です。
投票するためにトークンが必要という程度のユーティリティ性では足りない可能性があります。
the DAOもガバナンストークンを発行していましたが、そのトークンは「証券」にあたるとSECによって判断されました。
the DAOは投資を行うためのビークルであったため③利益の期待がありました。
また、Slock.itやキュレーターの努力が不可欠だったこと及び、トークン保持者の議決権が限定的であったことから、④他人の努力が認められました。
このようにガバナンストークンは、慎重な設計を行わないと容易に「証券」にあたります。
セキュリティトークン
基本的には「証券」にあたります。
当該セキュリティトークンに、ユーティリティ性を持たせるような設計を考えていくことになります。
ただ、証券性を上回るようなユーティリティ性を付与しなければならないため、本来の目的を達成できないことになるかもしれません。
まとめ
SAFTは資金調達としてだけでなく、トークンの流通を容易にするため用いられているのです。
最近では、SAFEとtoken warrantを併用したスキームも見られますが、これによっても、同様の手法で「証券」該当性を回避できると考えられます。
こちらの方が、株式としての可能性が存在しているため、資金提供する側にとって汎用性が高く使われているのかもしれません。
ただ、証券該当性についての考え方は同じだと思いますので、株式の発行を許容できるか次第でSAFTかSAFE+token warrantを選ぶことになります。
合法的なトークンの流通を考えている方は、トークンを発行される前に一度、証券該当性について考えてみてもいいかもしれません。