【ホラー短編】 三題噺「モナ・百鬼夜行・海」 【MONA小説】
とある夏。
海の家で住み込みバイトをしていたモナコインちゃん、ふと地元の若者のウワサ話を小耳に挟んでしまった。
「今夜はみんなで肝試ししよう」
「唐突に何を言い出すかと思ったら」
「今夜あの電気つかない古いトンネルに百鬼夜行が出るって、さっき叔父さんに聞いたんだよ」
「まじで?」
都市伝説が大好物のモナコインちゃん、猛烈に肝試しに参加したくなってきた。
「でも……誘われてないし、どうしよう……」
***
結局、日が暮れるまで、地元の若者たちに声をかけられなかった。
しかし、
「こっそりついていくだけなら……いいよね……」
時間と集合場所をちゃっかり聞いていた彼女は、ひそかに肝試し一行の後をつけた。
しばらく夜道を歩いていくと、若者たちは古いトンネルの前で足を止めた。街灯はトンネルの前で途切れ、その先は、果ての無い深淵に続くと思われた。
「ここから、オバケの行列が出てくるんだと。……叔父さんが直接見たわけじゃないけど」
「なんだ、大丈夫かよ」
「わからん。とりあえず待とう」
モナコインちゃんは、彼等に気付かれないよう茂みに隠れながら、妖怪たちを待った。
「ふわ~……、眠くなってきた。もう3時間も待ってんだけど出ねえじゃん」
「そうだな……。悪かった。じゃ、帰ろうか」
いい出しっぺの若者が少々済まなそうに言うと、一行はぞろぞろと引き返していった。
モナコインちゃんもバレないよう、こっそりついていこうとした時――
『もなげはいらんかね……』
トンネルの奥から、老人の声がした。
モナコインちゃんは、どきりとしたが、不思議と恐怖を覚えなかった。
「は、はい……。くだ、さい」
思わず返事をしてしまった。
『手をお出し……』
言われるままに手を差し出した。
『チャリン』
誰もいないはずの夜道で、確かに音がした。
小銭の音。
彼女の手のひらの上には、幾枚かのコインが。
「モナ……コイン……」
モナコインちゃんは、目をこらしてトンネルの奥をじっと見た。
何も見えなかった。
時折、小銭を落とす音だけが遠ざかっていく誰かの存在を示していた。
(了)