『NFTの教科書』著者が語るメタバースとNFT【テレ東経済ニュースアカデミー】に感じた問題点について
表題の件について思うことがありましたので筆を執りました。
とても長くなってしまったので、最初にまとめを記載してから、本文に入りたいと思います。
まとめ
当該動画の問題点として、メタバースに暗号資産・NFTが必須と視聴者が誤解するような構成になっていました。その理由としてゲストがYes/Noクエスチョンに対してNoを示すべきであろうシーンで「そうですね」から回答を始めてしまったことにあるように見えました。また、積極的に誤解を解こうとしているようには見られませんでした。動画はジャンプカット編集などがされている可能性があり、また視聴者が受け取るメッセージについての責任は動画作成者にあることから、テレビ東京側にも問題があると感じました。
また、この話題を起点としてクリプト界隈の現状の問題点を示しました。クリプトを推進したいと思っている誠実な人々はその現状も理解したうえで行動することが求められていることを述べました。
動画と書籍について
表題の動画は、テレ東の報道記者の豊島さんが、書籍の「NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計まで デジタルデータが資産になる未来」の編集に関わった天羽さんをゲストにトークした35分程の動画になります。
動画のリンクはこちら
https://youtu.be/Pzjfo0Ts6ik
書籍のリンクはこちら(アフィリエイト)
https://amzn.to/3iwWSKA
お二人のざっくりプロフィールは以下の通りです。
- 天羽健介さん
- 本の執筆編集者でゲスト
- 日本暗号資産ビジネス協会NFT部会長
- 暗号資産取引所 コインチェックの執行役員
- 豊島晋作さん
- テレビ東京の報道局報道記者, ニュースキャスター。進行役。
- 本は読んだけれど結構難しくよく分からないところも多かったとのこと
気になった問題点
動画全体を通して、メタバースとNFTの関係について誤解をさせるような内容になっていると感じました。
嘘は述べていないものの限りなくミスリード (誤解を誘う) ような傾向を感じました。
以下に動画の流れに沿って具体的な個所を上げながら述べてみたいと思います。
メタバースとNFTは相性が良い
https://youtu.be/Pzjfo0Ts6ik?t=180
冒頭ですが、こちらでは相性が良いという表現に留まっています。
こちらは誤解ない表現です。
動画上に映っているのは、The Sandbox。
The Sandboxとは、Ethereumを活用したマインクラフトのような見た目をしたメタバースプラットフォームの1つです。
ゲストの天羽さんが所属するコインチェックが作ったOasis TOKYというワールドが映像として本邦初公開されました。
プレスリリースはこちら
コインチェックとThe Sandbox、メタバース上で都市開発を開始
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000112.000021553.html
テナント代 2000~3000万
https://youtu.be/Pzjfo0Ts6ik?t=245
こちらですが、私が知見がなくてどのような数字を概算で示されたものかは分かりませんでした。 ワールド作成に必要なエンジニアやデザイナなども含めてトータルで表現されていたようです。
買い物をする時にNFTになる。メタバースで使われるモノやサービスがNFTになってくる
現実ではお札で買い物する -> BTCやETHなどの暗号資産とNFTを交換することになる
風景を勝手に作ってもいいのか?渋谷の109とか。
肖像権の確認を取ってやっている。
Q. 自社商品をデジタル空間で売るとき、暗号資産との関係が必要になってくる?
A.暗号資産・NFTをどう使うか、会計処理をどう会社で取り扱うか調べないといけない。
https://youtu.be/Pzjfo0Ts6ik?t=396
この辺りの説明が、大きなミスリードで問題だと感じました。
つまり、メタバースには暗号資産・NFTが必須と受け取られかねないということです。ゲーム内アイテムの購入とどう違うのかの説明が肝だと思うのですがそういった部分を述べられていないようでした。
なお現状では、メタバースには暗号資産・NFTは必須とは言い切れず、むしろ競争が始まったばかりであるというのが正確なところだと思います。
このミスリードを理解するうえでは、メタバース=Sandoboxといういちプラットフォームのことを話しているのか、広義でのメタバースなのか がポイントと考えました。 少なくとも視聴者はどう考えても後者だと思って聞いていると思います。進行の豊島さんの口ぶりも後者のような形です。 これが後々までミスリードを引きずっていると感じました。
(質問者). メタバースの空間の中で経済活動をするのであれば暗号資産が必要であって、NFTで紐づいた唯一無二のものを売買していくことになるのでしょうか?
(回答者). そうですね。単にコミュニケーションするだけならボイスチャットとかでもできると思うが、ここに経済活動を含めるかどうかがポイントですね。
(質問者)経済活動をやる以上は絶対NFTが必要になってくるということ。なるほど~
https://youtu.be/Pzjfo0Ts6ik?t=529
こちらですが、引用が少し足りずもう少し手前から再生して全体のセンテンスを捉えてもらう必要があるかもしれません。
先に述べた通り、誤解を解いていないのでこのような会話になってしまっていると感じました。 特にこの回答はミスリードであり、不誠実さを明確に覚えました。具体的には、経済圏にNFTが必要と言い切ってしまっているところです。
他の箇所でもそうですが、Yes/Noクエスチョンにたいして「そうですね」とYesを想像させるところから回答が始まっています。ここは、Noを想像させる回答が実態に正しいと思いました。 特に、回答を聞いた後の反応で「絶対NFTが必要になってくる」というような相槌が打たれているところでは否定しないといけないと思います。ただ、本当はもう少しやり取りがあって訂正や詳細な説明がされていた可能性もありえます。ジャンプカット編集などがされているかもしれません。
なぜ、Noの回答が望ましいのかを述べたいと思います。
少し考えてみれば、そもそもデジタル上の経済圏はスマホのアプリストアやゲーム配信プラットフォーム Steam のように、各プラットフォーマーが囲い込みを行いたいビジネス領域だと思います。
例えば、VRChatというメタバース向けに使える3Dアバターは、pixivが運営するBOOTHというショップサイトで多数販売が行われています。全く別サイトですからユーザーはわざわざアップロードする作業を行っています。もし、VRChat内にショップ機能があればここから手数料ビジネスを行えることは容易に想像されます。
それをわざわざオープンな仕組みである Ethereum を採用し、競合になりうる他のメタバースサービスと相互に行き来できるようにするというのはどのようなビジネス戦略でしょうか。これは見方によれば弱者の戦略といえるのではないでしょうか。(もちろん市場のパイを広げることで利益を拡大する戦略も一般的なものの1つではありますが。)
実際、先に挙げたVRChatでは暗号資産やNFTについて直近では取り扱わない旨などを表明しています。
VRChatがNFTとの統合を否定 NFTに対する企業の温度差が浮き彫りに https://panora.tokyo/archives/42490
このように、利用経験のあるユーザーにとってはすぐに反証が思いつくようなところで、大きなミスリードがあります。
少し見方を変えてみますと、暗号資産取引所のコインチェックさんがsandboxに投資しており、sandboxのユーザが増えれば暗号資産の利用者が増えることになります。つまり、ポジショントークとして自身の領分だけについて語っているに過ぎないともいえるかもしれません。 その観点だけで言えば、動画制作者側がバランスを取るべき事項かもしれません。
なお、技術的な話としては Ethereum を使っても囲い込み戦略を作ることは可能です。
(質問者)メタバース上でもクレジットカードを登録してそれでやればよさそうだがどうですか?
(回答者)入り口としては良いかもしれませんね。初めに日本円とかでNFTを買ったりするときにクレジットカードは良いと思う。その後、メタバース空間上でお金とかモノをやり取りする時、共通した基盤であるブロックチェーンを使ってBTCや暗号資産を交換するほうがよりシームレスだと感じます
(質問者)お店行って買う時は良いけど、買ったものを別の人に売るとき暗号資産じゃないとできないという?
(回答者)そうですね。その方がより便利だと思います。 https://youtu.be/Pzjfo0Ts6ik?t=560
上記の暗号資産が必須という回答を受けて、従前のクレジットカードを用いた決算手段が想像できるという質問がなされています。まさに上述のミスリードをしてしまった結果です。
ここでも誤解を解かずに話を進められてしまいました。
そのために、回答冒頭の「そうですね」は、「必須ということですね?」に対するYesではないということになります。必須ではないのだけど、暗号資産だと便利だ というものをもう少しうまく説明できていれば印象はだいぶ変わってくると思います。また、暗号資産が今後広がっていくであろう意見になるため説得力が増すはずでした。
まとめると、正確性よりも分かりやすさを優先した結果、より良い説明をする機会を失い、さらに一部の識者からは敵対的な目で見られるということになってしまいました。
ここのとりまとめですが、上述の流れに反し明瞭で正確に行われています。
メタバースがどういうものか定義して、なぜ暗号資産やNFTが必要になってくるかを述べている。
本当はゲストの天羽さんがこれを語らないといけないはずだったように思えます。
さて、そういう観点では、上述に示したミスリードについて明確に解いていないが、進行の報道記者さんは本質を捉えて正確な理解に置き換えているので問題ないのかもしれません。いや、動画全体を通してみると、メタバースに暗号資産は必須という風に見えるので良くないですが。
3D-SNSの勢力図について
https://youtu.be/Pzjfo0Ts6ik?t=978
NFT・ブロックチェーン対応や対応される未来をありきで会話されています。 こちらも既に述べた通り、「そうですね」で始まって説明されている部分に問題があると感じます。また、勢力図にNFT否定表明をしているVRChatなどが含まれておらず、メタバース業界を恣意的に見せているのではないか という意見も耳に挟みました。
ところで、NFT否定派のメタバースがある話がツイートに流れてきたのでここにリンクを貼っておきます。
\#令和ネット論 未公開トーク/
— NHK 令和ネット論 (@nhk_nethistory) March 22, 2022
収録が盛り上がった結果、泣く泣くカットしたシーンを大放出!#メタバース と #NFT の親和性について、#バーチャル美少女ねむ さんに聞きました。
番組本編は #NHKプラス で配信中!
#1 NFT&メタバースhttps://t.co/te2Alv1vB1
#2 DXhttps://t.co/GXJ2xRs6hE pic.twitter.com/kk0CpyVElM
大勢が入ると通信が混雑したりしないのか?
https://youtu.be/Pzjfo0Ts6ik?t=1185
ここはもう少しメタな会話なので正確性は仕方ないのかなとは思います。 処理能力と通信能力をごちゃごちゃにして会話されています。 6Gぐらいになれば~と表現されているのは、あくまでもそれぐらいの時代になっていたらぐらいの意味で会話されていると感じました。 ただ、こちらも聞き手によってはミスリードになるかもしれません。
このように考えると、ミスリードかどうかは聞き手の知識ベースに依存するところもあり、程度問題と言ってしまえばそれまでなのかもしれません。しかし、クリプトを語るときにはこれがあまり許されない状況があります。この点は後述します。
メタバースにクリプト・NFTは不要なのか
ここまでとは逆の観点で述べてみたいと思います。メタバースにNFTが必須であるの対は、メタバースにNFTは不要となります。
こちらは論理的には正しいです。しかし、組み合わせて利用することを一様に否定する理由にもならない点には注意です。
クリプトはクリエイターエコノミー(クリエイター周りの経済圏)の改善を始め様々な可能性を秘めた未成熟の技術です。 そのため、一様に否定されることになるのはもったいないなと感じます。 また、クリプトに関して技術的に正しくない理解に基づいて否定されている事例も見かけており、これでは同じ穴の狢ではと思わざる得ないこともあります。
とはいえ、上述で述べたように技術的に正しくない説明がコピペであちらこちらでされている状況です。また、それらを判別するにもソフトウェア技術の知見が必要と中々酷ではあります。
メタバース側の人々が嫌悪していることについて
ご存知の方もいると思いますが、メタバースにNFTが必須といった言説に苛立ちや嫌悪感を示されている方が少なからず居ます。こちらについても述べてみたいと思います。
まず、先に述べた通り、メタバース利用者なら具体的な反証がすぐに思いつくことにあります。既存の愛好家からすれば、リスペクトなく技術的な正しさもない実態に則していないことが喧伝されることは怒りの原因となるでしょう。
しかし、私は怒りの原因はそれだけに限るものではないと考えています。それはクリプトの現状についてです。 例えば、ツイッター上でMetaMask(クリプトで使う著名なウオレット名)やクリプトと発言すると、ものの秒で数件のBotからメンションが来ます。それらはサポートを装った詐欺です。また、自分のお気に入りのイラストレーターさんが無断でNFT化され売却益をかすめ取られるなどを目撃したりしています。クリプトユーザーはこういった魑魅魍魎が跋扈していることを知っていますし日常的な部分があります。 一方で、一般的にみれば異常な犯罪行為が当たり前にされているのが今のクリプト界隈と言わざる得ないでしょう。他にもお金が絡むため間違いだらけのコピペ記事とアフィリエイトサイトなどがあげられるでしょう。 このように、これらを観測しているメタバースユーザーはクリプトに対して不信感を抱えていることになります。そのような状況下において、クリプトを主導する側である国内取引所や有識者がメタバースと絡めた会話をする時に、分かりやすさ優先で正確性を犠牲にするとどのような感情を抱くかは想像に難くありません。
クリプトを広めたいと思っている側は、このような状況下にあることを理解したうえで、自身の発言と振る舞いを行うべきというのが私の意見になります。 従って、出演する動画・番組についても製作者と認識をうまく合わせる必要があると思います。
今日のクリプトは全員が当事者になれることで発展してきており、今後も変わらないと思います。ありていに言えば、UGCはキーワードなはずでそれを踏まえればなおさらです。
おわりに
タフな内容で長文となりまして、ここまで読んでいただいた方はA4で6ページほどの量を目を通したことになります。ありがとうございます~!
建設的なコメントは歓迎です。
以上です。