菊池雄星投手の変身:2024年シーズン ブルージェイズからアストロズへの移籍による投球スタイルの変化
菊池雄星投手の変身:2024年シーズン ブルージェイズからアストロズへの移籍による投球スタイルの変化
2024年7月30日、左腕の菊池雄星投手はトロント・ブルージェイズからヒューストン・アストロズへとトレードされました。菊池投手は2019年のメジャーリーグ入りからシアトル・マリナーズ、ブルージェイズと渡り、アストロズでの新たな挑戦を迎えることになりました。
このブログでは、2024年シーズンのStatcastのピッチングデータを分析し、菊池投手の投球スタイルがアストロズに移籍した後どのように変化したのかを詳細に調査します。
データの概要
分析に使用したデータは、2024年シーズンの菊池雄星投手の全投球データです。
- トレード前(ブルージェイズ):2024年3月30日〜7月26日の1,955球
- トレード後(アストロズ):2024年8月2日〜9月25日の968球
球種構成の大きな変化
菊池投手の投球スタイルは、アストロズに移籍した後で劇的に変化しました。最も顕著な変化は、スライダーの使用率が大幅に増加し、カーブの使用率が大きく減少したことです。
球種 | ブルージェイズ | アストロズ | 変化(%ポイント) |
---|---|---|---|
FF (ファストボール) | 49.6% | 41.8% | -7.7 |
SL (スライダー) | 17.4% | 37.2% | +19.7 |
CU (カーブ) | 22.1% | 9.4% | -12.7 |
CH (チェンジアップ) | 10.9% | 11.6% | +0.7 |

特筆すべきは、スライダーの使用率が倍以上に増えたことと、カーブの使用率が半分以下に減少したことです。この変化は明らかにアストロズのピッチングコーチによる意図的な調整と考えられます。
球速の変化
各球種の平均球速にも変化が見られました。全体的に若干の球速低下が確認されました。
球種 | ブルージェイズ (mph) | アストロズ (mph) | 変化 (mph) |
---|---|---|---|
FF (ファストボール) | 95.6 | 95.2 | -0.4 |
SL (スライダー) | 89.0 | 87.5 | -1.5 |
CU (カーブ) | 82.8 | 80.1 | -2.7 |
CH (チェンジアップ) | 87.2 | 85.8 | -1.4 |

特にカーブとチェンジアップの球速低下が目立ちます。これはより鋭い変化を求めて意図的に球速を落としている可能性があります。
空振り率の変化
移籍後、菊池投手の投球は全体的に空振りを取る能力が向上しました。特にチェンジアップの空振り率が大幅に改善されています。
球種 | ブルージェイズ (%) | アストロズ (%) | 変化 (%ポイント) |
---|---|---|---|
FF (ファストボール) | 24.1 | 26.9 | +2.8 |
SL (スライダー) | 25.6 | 26.0 | +0.4 |
CU (カーブ) | 22.8 | 20.6 | -2.2 |
CH (チェンジアップ) | 28.9 | 41.9 | +13.0 |
全体 | 24.5 | 27.5 | +3.0 |

チェンジアップの空振り率が41.9%まで向上したことは特筆に値します。
カウント別の投球傾向の変化
アストロズへの移籍後、カウント別の投球パターンにも大きな変化が見られました。特に以下の変化が顕著です:
フルカウント (3-2) での選択球種
- ブルージェイズ時代:スライダー 41.0%、ファストボール 38.6%
- アストロズ時代:スライダー 79.2%、ファストボール 18.8%
不利カウント (2-0) での選択球種
- ブルージェイズ時代:ファストボール 52.6%、スライダー 28.1%
- アストロズ時代:スライダー 65.2%、ファストボール 30.4%

アストロズでは、特にプレッシャーのかかるフルカウントやビハインドカウントでスライダーの信頼度が大幅に高まっていることがわかります。この変化は、菊池投手のスライダーの質が向上したか、アストロズのコーチングスタッフがスライダーを最も信頼できる球種と評価した結果と考えられます。
打者への効果
打球データにも変化が見られました:
指標 | ブルージェイズ | アストロズ | 変化 |
---|---|---|---|
平均打球速度 (mph) | 83.6 | 82.1 | -1.5 |
ハードヒット率 (95+ mph) | 26.9% | 25.3% | -1.6% |
ストライク率 (%) | 48.0 | 50.2 | +2.2 |


移籍後、打者が放つ打球の質が低下し、ストライクを取る能力も向上しています。これは投球の効果が全体的に向上したことを示しています。
対左右打者の配球
対左右打者の配球バランスにも変化が見られました:
- ブルージェイズ時代:左打者 17.6%、右打者 82.4%
- アストロズ時代:左打者 21.2%、右打者 78.8%
アストロズでの登板ではやや左打者との対戦機会が増えていますが、基本的には右打者との対戦が約8割を占めています。
総合分析:何が起きたのか?
菊池投手のアストロズへの移籍後の変化を総合的に分析すると、以下のような変化が起きていることがわかります:
投球レパートリーの再構築:
- スライダー中心の投球スタイルへの転換
- カーブの使用を大幅に減らし、補助的な球種へ
- ファストボールへの依存度を下げる戦略的変更
球種の質の向上:
- チェンジアップの空振り率が大幅に向上(+13.0%)
- 全体的な空振り率の向上(+3.0%)
- 球速を若干落とす代わりに、より効果的な変化を獲得
戦略的な球種選択の変化:
- 重要なカウントでスライダーへの信頼度増加
- より明確な球種選択パターンの確立
- 特にフルカウントでのスライダー率が約80%へ急増
全体的な効果の向上:
- ストライク率の向上(+2.2%)
- 打球速度の低下(-1.5 mph)
- ハードヒット率の減少(-1.6%)
結論:アストロズ効果
この分析から、菊池雄星投手はアストロズへの移籍後に投球スタイルを大きく変えたことが明らかになりました。特に、スライダーを主軸とした配球への転換とカーブの使用減少が特徴的です。
この変化は偶然ではなく、アストロズのピッチングコーチングスタッフによる意図的な調整と考えられます。アストロズは近年、投手の強みを分析し、最も効果的な投球スタイルに転換させることで知られています。菊池投手の場合も、スライダーが最も効果的な武器であると判断し、それを中心とした投球プランを構築したのでしょう。
結果として、菊池投手のピッチングの効果は全体的に向上し、打者に対してより厳しい投球を投げられるようになりました。この「アストロズ効果」は、データ分析に基づく現代野球のコーチングの威力を示す好例と言えるでしょう。
今後、菊池投手がこの新しい投球スタイルをさらに磨き上げることができれば、キャリアの新たな高みを目指すことができるかもしれません。